人物
近所のアパートで独り暮らしだった三上さんは、72歳という割には風貌も若々しく、人懐っこくて社交的な性格だった。スリムな体形にいつもジーンズ。もちろん"Mom Jeans"なんかじゃない、普通のジーパンだ。口ひげをたくわえ、晩年のチェット・ベイカーにもど…
この町に胡散臭い人間はゴロゴロといるが、顔の広さとフットワークの軽さでいえばこのブタ兄弟の二人だろう。 兄の方はもう70歳位になるはず、最近はあまり姿を見ない。先代の故林家三平に似た風貌。世間の評判では、「兄の方がまだマトモで信用できる」との…
ばってん荒川、志村けん、由利徹、桑原和男、青島幸雄・・・。著名な「男の婆さん」を挙げてみた。 三年前に亡くなったヨシオ婆さんは、市井の人だが、本物の「男の婆さん」だった。 ヨシオ婆さんが生まれたのは、県北部の観光地として有名な城下町。古風で閉…
早野という爺さんがいる。 だいぶ老いてはいるが、気はシッカリしている。昼間、自転車をすいすい漕いでどこかへ出かける姿がよく見られる。 暇なのか元来の話好きなのかは知らないが、近所の者を捕まえてはいろいろと話して聞かせる。例えば、電車の中で突…
佐村河内守とかいう人が話題になっている。 私はつい数日前までこの人の存在を知らなかった。このずいぶんと重たそうな名前を初めて見たときは、「サムラカワチノカミ」という昔の殿様の話かと思った。 世間には麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚のエピソードと…
来月、この自治体の首長選挙が行われる。 当初、どうせ大した対立候補も現れず1期目を任期満了する現職が再選して終わりだと思われていた。元より私も地元政治には関心が薄く、とくにこの選挙は投票に行くこと自体が馬鹿らしかった。 しかし、ここに来て俄…
鈴村サチエさんはとうに70歳を超えていたが、そうは見えない程に元気だった。 背は低く150cmあるかどうか。短髪できつめのパーマ。とがった顎に妙に落ち着いた目つき。ちゃきちゃきとした感じは歌手のチータのイメージに近いが、ずっと男らしかった。 カラッ…
ユウさんは不動産屋だ。 賃貸も扱うが、どちらかと言えばコツコツするより、中古の大きな物件を年に数回動かしてあとはユタリと過ごすのを好むようだ。 だが小さい仕事もやらないわけではない。滞納など賃貸絡みの厄介な後始末やアウトローなややこしい相手…
3人兄弟の末っ子としてソネちゃんが生まれたのは戦後ベビーブーム時。団塊のど真ん中にあたる。 この炭坑町でも最も数が多い世代だ。 団塊世代をピークとする出生の減少に、この町の衰退が追い重なっている。そのため、日本全体の世代分布と比べてもより極端…
先日LL軒の前を通りかかったら駐車場にユンボが置いてあった。完全に閉店してから何年経つだろうか?ついにこの建物も解体されるのかと思うと若干寂しくもある。 LL軒は昭和40年頃に開店した中華屋だ。評判の味で、この町では知られた繁盛店だった。 店主に…
松井ヤエさんは長崎の出身だ。原爆が投下されたとき中学生だったというから、今はもう80歳を超えている。 本人の話によれば、若い頃に長崎市内でも老舗の商店に嫁いだそうだ。しかし、ヤエさんが某新興宗教に入信し熱心に題目を唱えるようになったために家を…
島本氏は今年で72歳になる。 父親は土建業を経営しながら、昭和30、40年代には長らく市議会議員を務めた。 当時この町は高度成長の活気に溢れていた。そこの利権を握っていた。周りの建築屋や労働者からはチヤホヤされまくった。島本一家の下品で成金的な羽…
偽装離婚、偽装母子という言葉がある。事実上は夫婦関係が続いていても離婚届けを出す、あるいはほとんど夫婦同然の暮らしをしていても婚姻届を出さない。要するに、生活保護費を多めに頂戴するための悪知恵である。 大村トキさんと浦川氏は、二人とも70歳…
各地から炭鉱に集まった人で成り立った町である。そのためかヨソ者に対してもオープンで優しい。 瀬戸内の温暖な風土も影響しているのかもしれない。同じ県内であっても江戸時代に藩の中心であった山陰の城下町とは対象的である。 ただ、このオープンさは時…
「悪いやつ・上」からのつづき 末中氏は病気を患ったようで、久しぶりに見かけたときはかなり衰えていた。岡森は「この人はワタシがいないと何にも出来ないから。」と言って、これ幸いと末中氏の生活に入り込んでいった。 すぐに岡森が末中氏の金銭を管理する…
末中氏(仮名)が亡くなって、もう2年くらい経つだろうか。70歳は優に超えてたと思うが、数年前から既にヨボヨボだった。脳梗塞を患ったこともあったかもしれない。 20年以上前の型のカローラに乗っていたが、ドアミラーにはヒビが入ったまま、ドアも激しく…