炭坑夫の末裔たち

かつて炭坑で賑わったまちの日常譚。飽くまでフィクション、です。

風習

図書館のジイさん、自転車のバアさん

日曜日のためか市立図書館は多くの利用者が来館していた。 しかし、その割には職員数が足りないように思えた。普段よりも1,2人少ないのではなかろうか?貸出カウンター前には手続きを待つ人々が滞留している。 いや、滞留の原因は員数不足だけではないよ…

石炭を売っていたという早野の爺さん

早野という爺さんがいる。 だいぶ老いてはいるが、気はシッカリしている。昼間、自転車をすいすい漕いでどこかへ出かける姿がよく見られる。 暇なのか元来の話好きなのかは知らないが、近所の者を捕まえてはいろいろと話して聞かせる。例えば、電車の中で突…

宅配ピザ

このまちの人口は17万人ちょい。その割には多すぎるのではないかと思われる商売がいくつかある。整骨院、歯科医院、理容・美容院、スナック、ケーキ屋など。整骨院の多さはここがかつての炭坑町であったことの名残だろう。スナックの多さは、このまちには…

首長選挙

来月、この自治体の首長選挙が行われる。 当初、どうせ大した対立候補も現れず1期目を任期満了する現職が再選して終わりだと思われていた。元より私も地元政治には関心が薄く、とくにこの選挙は投票に行くこと自体が馬鹿らしかった。 しかし、ここに来て俄…

歩車分離式信号

鈴村サチエさんはとうに70歳を超えていたが、そうは見えない程に元気だった。 背は低く150cmあるかどうか。短髪できつめのパーマ。とがった顎に妙に落ち着いた目つき。ちゃきちゃきとした感じは歌手のチータのイメージに近いが、ずっと男らしかった。 カラッ…

この町のラーメン

国民食ラーメン。ダシ、麺、具、調味料・・・地域によるバリエーションの豊かさは蕎麦、うどんと比べてもカラフルだ。 もちろん、この町のラーメンにもこの町の味がある。 スープはかなり濃厚なとんこつ醤油。ゆっくり食べていると幕が張る。食べ終わった後…

産学官

ゴールデンウィークも終わり、日差しが強い。 この季節になると、町には海側からの風が吹き込む。 海側の風は暖かで適度な湿り気があり、それ自体は快適だ。ただし鼻が詰まっていればの話であるが。 海からの風は、上陸時に海岸のコンビナートから強い刺激臭…

S川市まつりの香具師

この町には、いわゆる市民祭りと呼べるものが2つある。 ひとつは11月初めの文化の日に絡んで開催されるUまつり。もともとは炭坑祭りと呼ばれていた。日頃の炭坑労働をねぎらい、気分晴らし憂さ晴らしのために開かれていた祭りだ。農民たちが収穫祭を開く…

作業服

この町では作業服が好まれる。 他の地域では労務者風と呼ばれるスタイルも、ここではむしろ好感され、特に高齢者の中には仕事衆・仕事師などと敬意を込めて呼ぶ人もいる。 仕事が終わって飲みに行く時ももちろん作業着だ。居酒屋はもちろんのこと、コジャレ…