炭坑夫の末裔たち

かつて炭坑で賑わったまちの日常譚。飽くまでフィクション、です。

高齢者

図書館のジイさん、自転車のバアさん

日曜日のためか市立図書館は多くの利用者が来館していた。 しかし、その割には職員数が足りないように思えた。普段よりも1,2人少ないのではなかろうか?貸出カウンター前には手続きを待つ人々が滞留している。 いや、滞留の原因は員数不足だけではないよ…

ブタ兄弟

この町に胡散臭い人間はゴロゴロといるが、顔の広さとフットワークの軽さでいえばこのブタ兄弟の二人だろう。 兄の方はもう70歳位になるはず、最近はあまり姿を見ない。先代の故林家三平に似た風貌。世間の評判では、「兄の方がまだマトモで信用できる」との…

ヨシオ婆さん

ばってん荒川、志村けん、由利徹、桑原和男、青島幸雄・・・。著名な「男の婆さん」を挙げてみた。 三年前に亡くなったヨシオ婆さんは、市井の人だが、本物の「男の婆さん」だった。 ヨシオ婆さんが生まれたのは、県北部の観光地として有名な城下町。古風で閉…

石炭を売っていたという早野の爺さん

早野という爺さんがいる。 だいぶ老いてはいるが、気はシッカリしている。昼間、自転車をすいすい漕いでどこかへ出かける姿がよく見られる。 暇なのか元来の話好きなのかは知らないが、近所の者を捕まえてはいろいろと話して聞かせる。例えば、電車の中で突…

Fさんの奥さんが立ち上がった日

佐村河内守とかいう人が話題になっている。 私はつい数日前までこの人の存在を知らなかった。このずいぶんと重たそうな名前を初めて見たときは、「サムラカワチノカミ」という昔の殿様の話かと思った。 世間には麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚のエピソードと…

蓮田んぼ

とあるお婆さんから聞いた話。 このお婆さん、今では平気だが長いこと蓮根が苦手で食べられなかったそうだ。 現在は残っていないが、かつてはこの町にも蓮田んぼが結構あったらしい。 このお婆さんがまだ中学生だった、太平洋戦争中の昭和17年8月のこと。 大…

歩車分離式信号

鈴村サチエさんはとうに70歳を超えていたが、そうは見えない程に元気だった。 背は低く150cmあるかどうか。短髪できつめのパーマ。とがった顎に妙に落ち着いた目つき。ちゃきちゃきとした感じは歌手のチータのイメージに近いが、ずっと男らしかった。 カラッ…

ソネちゃん

3人兄弟の末っ子としてソネちゃんが生まれたのは戦後ベビーブーム時。団塊のど真ん中にあたる。 この炭坑町でも最も数が多い世代だ。 団塊世代をピークとする出生の減少に、この町の衰退が追い重なっている。そのため、日本全体の世代分布と比べてもより極端…

ヤエさん

松井ヤエさんは長崎の出身だ。原爆が投下されたとき中学生だったというから、今はもう80歳を超えている。 本人の話によれば、若い頃に長崎市内でも老舗の商店に嫁いだそうだ。しかし、ヤエさんが某新興宗教に入信し熱心に題目を唱えるようになったために家を…

高齢者カップル

偽装離婚、偽装母子という言葉がある。事実上は夫婦関係が続いていても離婚届けを出す、あるいはほとんど夫婦同然の暮らしをしていても婚姻届を出さない。要するに、生活保護費を多めに頂戴するための悪知恵である。 大村トキさんと浦川氏は、二人とも70歳…