炭坑夫の末裔たち

かつて炭坑で賑わったまちの日常譚。飽くまでフィクション、です。

2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ヤエさん

松井ヤエさんは長崎の出身だ。原爆が投下されたとき中学生だったというから、今はもう80歳を超えている。 本人の話によれば、若い頃に長崎市内でも老舗の商店に嫁いだそうだ。しかし、ヤエさんが某新興宗教に入信し熱心に題目を唱えるようになったために家を…

オールド・ルーキー

島本氏は今年で72歳になる。 父親は土建業を経営しながら、昭和30、40年代には長らく市議会議員を務めた。 当時この町は高度成長の活気に溢れていた。そこの利権を握っていた。周りの建築屋や労働者からはチヤホヤされまくった。島本一家の下品で成金的な羽…

高齢者カップル

偽装離婚、偽装母子という言葉がある。事実上は夫婦関係が続いていても離婚届けを出す、あるいはほとんど夫婦同然の暮らしをしていても婚姻届を出さない。要するに、生活保護費を多めに頂戴するための悪知恵である。 大村トキさんと浦川氏は、二人とも70歳…

作業服

この町では作業服が好まれる。 他の地域では労務者風と呼ばれるスタイルも、ここではむしろ好感され、特に高齢者の中には仕事衆・仕事師などと敬意を込めて呼ぶ人もいる。 仕事が終わって飲みに行く時ももちろん作業着だ。居酒屋はもちろんのこと、コジャレ…

謎の人

各地から炭鉱に集まった人で成り立った町である。そのためかヨソ者に対してもオープンで優しい。 瀬戸内の温暖な風土も影響しているのかもしれない。同じ県内であっても江戸時代に藩の中心であった山陰の城下町とは対象的である。 ただ、このオープンさは時…

悪い奴・下

「悪いやつ・上」からのつづき 末中氏は病気を患ったようで、久しぶりに見かけたときはかなり衰えていた。岡森は「この人はワタシがいないと何にも出来ないから。」と言って、これ幸いと末中氏の生活に入り込んでいった。 すぐに岡森が末中氏の金銭を管理する…

悪い奴・上

末中氏(仮名)が亡くなって、もう2年くらい経つだろうか。70歳は優に超えてたと思うが、数年前から既にヨボヨボだった。脳梗塞を患ったこともあったかもしれない。 20年以上前の型のカローラに乗っていたが、ドアミラーにはヒビが入ったまま、ドアも激しく…

ためにする仕事

私が暮らすのは地方の工業まちです。もともとは小さな農村だったのが石炭で大きくなり、エネルギーの転換とともに化学工業のまちへと変化を遂げ現在に至ります。エネルギー転換に上手く対処できたため、他の旧炭坑町ほどのひどい荒み方はありません。 しかし…