炭坑夫の末裔たち

かつて炭坑で賑わったまちの日常譚。飽くまでフィクション、です。

ためにする仕事

私が暮らすのは地方の工業まちです。もともとは小さな農村だったのが石炭で大きくなり、エネルギーの転換とともに化学工業のまちへと変化を遂げ現在に至ります。エネルギー転換に上手く対処できたため、他の旧炭坑町ほどのひどい荒み方はありません。

 

しかし他の旧炭坑町よりマシとはいっても、地方の工業都市の御多分にもれず市内の景気は低迷。チキンレース的価格競争による単価低迷とそれに伴う低賃金労働、高齢化による消費低迷に加えロードサイドのチェーン店や近県の大商業地域に消費が向かうという状況です。

 

そこに昨年、市内にある大手メーカーの工場が大規模なリストラを実施。下請け工場も含めかなりの失業者が生じました。

 

ところで今朝、テレビでローカルニュースを見ていたら、こんな話がでてました。

大手メーカー工場からリストラされた40代の男性を、市が職員として採用し過疎地域の活性化のために、御用聞き、サポーターのような仕事をさせている、というものです。

気になったのは、あたかも工場リストラに伴う失業問題と過疎地域の存続の問題の2つを同時に解決するナイスな策だという感じで紹介されていたことです。

 

工場でリストラされたのは700人、下請け工場も含めると更に多くの人が失業したのですが、市が採用したのは1人。工場リストラ対策という名目でやってるのならほとんど意味が無い。まあゼロよりはマシですが。

現在過疎地域に住む高齢者の不便をサポートすることは意義があります。しかし過疎地域の活性化というのとは違う。今後この地域が自律的に機能し始めることは、おそらく無いでしょう。むしろ中途半端な期待をもたせることで罪なことになりはしないか、という気がするのです。

 

もっとも問題に感じるのは、雇用の問題、過疎地の将来の問題のいずれについても、解決から程遠いに関わらず、なにかやったように錯覚して満足してしまうおそれです。やるべきことはやった、というアリバイづくりにされてしまうおそれです。

さらに言うと、体よく受けのよさそうな形にまとめて善しとしている番組制作者にも違和感を感じたのでした。