炭坑夫の末裔たち

かつて炭坑で賑わったまちの日常譚。飽くまでフィクション、です。

悪い奴・上

末中氏(仮名)が亡くなって、もう2年くらい経つだろうか。70歳は優に超えてたと思うが、数年前から既にヨボヨボだった。脳梗塞を患ったこともあったかもしれない。

20年以上前の型のカローラに乗っていたが、ドアミラーにはヒビが入ったまま、ドアも激しくへこんでいた。バックで駐車するのは困難だったのだろう、いつも頭から車を突っ込んでいた。その代わり出る時が面倒で、車が来ていてもお構いなしにマイペースでノロノロと出ようとするのだから危なっかしい。毎回、激しくクラクションを鳴らされていた。

 

もともと横着で好かれないタイプのジイさんだったが、それでも昔は几帳面でコザッパリとしていた。家賃、光熱費等の支払いも特に滞らせるようなタイプではなかったと記憶する。

それが変わったのが、岡森三鈴(仮名)とうバアさんに食いつかれてからだろう。ちなみに私は岡森の名前が地元の新聞に載っているのを2回見ている。

1回目は2009年、パチンコ景品交換所で中の人にスプレーを吹き付け現金を奪おうとしたが失敗、強盗未遂で逮捕される。ちなみにこの当時岡森は68歳。

2回目は2012年、スーパーで食品を万引き。

 

周囲からの岡森の評判はすこぶる悪い。曰く、息を吐くように嘘をつく、金を貸したら絶対に戻ってこない、人のものを盗む、など。

もともと、夜の世界の人だった(彼女が若い頃はこの街も景気がよくて夜の街も活気があった、らしい)が、その頃から悪名高かったようだ。ただ利益になりそうな人に媚を売ったり取り入ったりするのが得意だったそうで、ナントカいう県会議員の妾として囲われていたらしい。

その県会議員もとうの昔に亡くなったが岡森の見栄張りや浪費の癖は治らず、寸借詐欺、光熱費等の踏み倒しなど日常茶飯事だった。

そんな岡森が目をつけたのが、若いころ羽振り良く飲みに来ていた末中氏だ。妻とはだいぶ昔に離婚、成人した二人の息子とは絶交状態。老後用の少々の蓄えはあるし、既に年金も貰っている。賃貸アパートで質素に暮らしている。岡森にはおあつらえ向きの獲物だった。

 

 つづく