炭坑夫の末裔たち

かつて炭坑で賑わったまちの日常譚。飽くまでフィクション、です。

作業服

この町では作業服が好まれる。

他の地域では労務者風と呼ばれるスタイルも、ここではむしろ好感され、特に高齢者の中には仕事衆・仕事師などと敬意を込めて呼ぶ人もいる。

仕事が終わって飲みに行く時ももちろん作業着だ。居酒屋はもちろんのこと、コジャレたバーであっても。それを恥ずかしく思うほうがカッコ悪い。

制服として支給されるものは、より好まれる。特に大手コンビナートの制服は退職後も愛用する人が多い。もちろん、丈夫だという理由もあるが、帰属意識、愛社精神の発露でもあろうし、ブランドなのである。

いい歳をしてなんと幼稚な・・と思う部分もあるが、それがこの町の雰囲気なのだ。

 

ここでは背広はむしろ胡散臭くみられる。

だから作業着の必要のないデスクワーカーも作業着を着ることが多い。公務員などで特に顕著だ。背広に対して近寄りがたさを感じる市民も多いだろう。作業服のほうが親しみやすさを醸しだすのは確かだ。

親しみやすさだけでなく、作業着のほうが誠実さ、信頼性のある人物だと思われるようだ。