炭坑夫の末裔たち

かつて炭坑で賑わったまちの日常譚。飽くまでフィクション、です。

この町のラーメン

国民食ラーメン。ダシ、麺、具、調味料・・・地域によるバリエーションの豊かさは蕎麦、うどんと比べてもカラフルだ。

 

もちろん、この町のラーメンにもこの町の味がある。

スープはかなり濃厚なとんこつ醤油。ゆっくり食べていると幕が張る。食べ終わった後は口の周りが獣臭くなる。同じとんこつでもあっさりした博多風とはだいぶ違う。筑豊、北九州、久留米などが近いと思う。旧炭鉱地帯、工場地帯という共通点はたまたまだろうか?

東京に比べれば小さめのどんぶり。もともと食事というよりもおやつ、飲んだ後の〆という位置付けからか。食事にしたい場合はおにぎりやライスをつける。メニューに大盛はあるが、その代わり替え玉の習慣はない。

 

このタイプを町の味として定着させたのはIという店の功績だろう。「この町を代表するラーメンは?」と聞けば誰しもが真っ先にIの名前を挙げる。

市内に数店舗のチェーン店がある老舗だ。基本的に粗野でえぐいスープが特徴だが、チェーン店全体で微妙に味が統一されていない。さらに同じ店でも行くたびに味の濃淡や麺のゆで具合がまちまちで安定しない。町の者はみんなその問題点を知っているし、冗談とも愚痴ともつかず批判するが、それでも皆ここのラーメンが好きなのだ。そもそもラーメンというのはそういうテキトーでざっくばらんな物だったし、それで充分と思う。

一方、「美味いと思う店は?」と聞かれた時に多くの人が挙げるのがUS駅前のSという店だ。店はオバサンばかり2~3人で営業されている。基本、Iと同じタイプのとんこつ醤油だが、えぐみのない非常に丁寧で品のある味になっている。女性ならではの細やかな配慮が寄与した味だろう。

 

だが、この2店も含め町のラーメン店の大多数が抱える問題がある。

それは、麺が軟らかすぎることだ。

 原因は解っていて、この町の飲食店の大部分に卸しているK製麺の麺が軟らかいからだ。

K製麺の会長さんと懇意にしているある人が、このことで苦言を呈したことがある。

だが反対に、軟らかい麺というのがいかに良いものか、K製麺はそれを目指してきたこと、そしてそれが今ではK製麺のウリになっていることをたっぷりと聞かされたそうだ。

 

そういえば、確かに自分も昨今の固麺ばやりには飽きがきている。

うどんも讃岐うどんのようなコシのあるタイプが良いとされ、九州や大阪のような胃に優しそうな麺が低く見られる傾向にある。パスタもアルデンテと生煮えを混同したようなのが罷り通っていたりする。バリカタとか言ってお湯が足りなかった時のカップヌードルみたいなのを有難がったり。ご飯だってシャキッとしたご飯と単に芯のあるご飯とが一緒くたに扱われている。そんな状況にウンザリ感じるときも増えてきた。

コシがあればいい、堅めだったらいいという安易な判断が横行していて、当に美味いのはなんなのか自分で感じたり考えたりすることを放棄してないだろうか?

 

そんなことを思いながら、今日の昼はIでラーメンを食べた。

 

でもやっぱり、これは軟らかすぎる。