炭坑夫の末裔たち

かつて炭坑で賑わったまちの日常譚。飽くまでフィクション、です。

ユウさん

ユウさんは不動産屋だ。

賃貸も扱うが、どちらかと言えばコツコツするより、中古の大きな物件を年に数回動かしてあとはユタリと過ごすのを好むようだ。

だが小さい仕事もやらないわけではない。滞納など賃貸絡みの厄介な後始末やアウトローなややこしい相手が絡んでいるトラブル処理であってもきちんと仕事をこなすのは流石にプロだ。もちろんそれなりのところに顔が利く。

 

ちょっとくたびれた感じだが、見ようによってはショーケンに似ていなくもない。

酒はかなり好きなようで、いつ会っても二日酔いに見える。

 

この前、郵便局で見かけたときは初老の男性と一緒だった。朝9時過ぎ位だろうか?ユウさんはまだ昨日の酒が残っているようでトロンとした目つき、やたらとシャックリをしていた。

初老の男性は不動産の買主、ユウさんが裁判所の競売で落とした物件を転売するようだ。大抵こんな場合、ユウさんは資金を全く持っていない。競売で落とす時点から、最終的な買主となるこの初老の男性に全て出させている筈だ。ユウさんはダンドリを組んで手続きをする。しかし、それだけの手数料としてはちょっと多めのものが懐に入ってくるのだ。ユウさんは、ほとんどノーリスクでありながら、そこそこのキャピタル・ゲインを得ることができる。

 

聞くとこれから法務局へ行って登記するとのこと、数十万円分の印紙を買っていた。

窓口の若い女の子に代金を支払おうとしているが、酒が残っている為かスムーズに札が数えられない。

ユウさんはため息混じりにつぶやいた。

「新札は指が滑ってイケんっちゃ・・・」

 

代金を受け取った窓口の子も枚数を確認する。

新札など1枚も混じってすらいなかった。

 

ユウさんは、こんな人だ。