炭坑夫の末裔たち

かつて炭坑で賑わったまちの日常譚。飽くまでフィクション、です。

ブタ兄弟

この町に胡散臭い人間はゴロゴロといるが、顔の広さとフットワークの軽さでいえばこのブタ兄弟の二人だろう。

兄の方はもう70歳位になるはず、最近はあまり姿を見ない。先代の故林家三平に似た風貌。世間の評判では、「兄の方がまだマトモで信用できる」とのこと。

弟は団塊世代のど真ん中。バカボンが大人になって還暦過ぎたらこんな感じだろうな、と思わせる顔をしている。

単に二人揃って肥満というだけでなく、フェイス的な問題であるとか、滲みでてくる浅ましさなどから、いつしか「ブタ兄弟」と陰口されるようになった。

 

もともとは親戚が経営していた建築資材販売の会社を、兄が継いで経営していたのだが、いつの間にか弟もそこに転がり込んできた。

時代の変化だけが原因なのか、或いは経営陣にも問題があったのか、いつしか会社は左前、従業員も皆去り、20年以上前から本来の業務は全く行っていない。だが、会社名は登記簿に残っており、いかにも建築資材を販売してるマトモな会社と錯覚しそうな名前を使って、不動産屋の真似事やインチキコンサルなどを生業としている。

たとえば、金に困っている人物と、ちょっと甘いとこのある小金持ちを、双方に美味いこと言って引き合わせる。仲介により融資となるが、ブタ兄弟が双方に説明している条件が実は微妙に違っている。世の中そんなオイシイ話が向こうから簡単に転がり込んでくるわけないけれど、ムシのいいことばかり考えてる人間はこんなイカサマにコロリとやられる。ブタ兄弟はまるでトリュフを探し当てるように、そんな人間を嗅ぎ分けることに長けている。このときブタ兄弟は仲介役として報酬を抜いているだけでなく、あれやこれやの事務手数料も確実に拾っていく。後になって、双方の思惑が異なっていることが露見して文句が出るどころではないが、ブタ兄弟は平気とのらりくらりやり過ごす。

 

自治体レベルのマイナーな補助金の情報にも耳が早く、取って付けたようなその場しのぎのプランで補助金をゲットするのも得意技だ。もちろん、補助金の切れ目が事業の切れ目という生き芽のないプランである。血税はこうして弟ブタのカラオケスナックでの飲み代に消えてゆく。

 

流行りものに飛びつくのも好きだ。7、8年前には高齢者向けの介護施設運営にイッチョ噛みしようと企んでいた。結局は周囲を引きずりまわしてフェードアウト。関係者の大半にとっては今では苦い思い出でしかないが、なかには人生が大幅に狂ってしまった者もいた。

 

要は、金の臭いにだけは敏感なブタ兄弟は、ノウハウも実力もないくせに力ずくで形にしようとするのだ。役所に勤める知人との細いパイプ、付け焼刃で勉強した業界事情・・・。こんな連中と組むのも、やはりノウハウもなく事情に疎い人物となる。

プロジェクトとしての失敗は必至。でもブタ兄弟がなんだかんだとギャラをかすめ取る理由だけはできる。

 

で、最近は何をしているのかというと、定年退職したオッサンらを集めて山の中で米を作っているらしい。集約してコストダウンというトレンドからみてもアウトだし、将来性のある若者に投資するという意義もない。環境問題もど素人というか受け売りを喋る程度。「過疎対策です」という上っ面の言葉がインチキっぽさを盛りたてる。

あと何年コメづくりを出来るのか、おそらくまともなコメが作れるようになるまではもたないような将来性のない素人ジジイ達の集団。

 

ああ、今日も補助金が入ったエサ箱にブタが鼻を突っ込んでいる。ブヒ、ブヒ、ブヒイイイ。